大学生活最後の夏、翠川にとって、全てはあの事件が発端だった。
この先も続くと過信した景気が減退し、過去の膨大な負債が、次の世代に重くのし掛かる。
そんな悪夢が決定的となった頃、社会は戸惑い、明から様に輝きを失いつつあった。
土砂降りの雨が止み、自転車のペダルを一生懸命に漕いで、翠川は民家の間を縫うように細い坂道を上がった。
噴き出した汗の粒が目に入らないように、首を振って、汗を千切る。
坂道の頂の寸前に、堪らず立ち漕ぎし、いつしか民家が途切れ、石ころの多い丘の上の坂道を、歯をくいしばって上りきった。
自転車のスタンドを立て、翠川はその場に座り込む。
眼下には我が街が、広がっていた。
大学に通うため、翠川は郷里を離れ、この街へやって来た。
高校生だった頃、成績優秀だった翠川に対し、学校側は進学を強く勧めたものの、翠川の家は貧しく、両親は商店街の小さな喫茶店を営むことで、精一杯であった。
仕送りを期待出来なかった翠川は、高校の担任の先生から貰った助言を受け入れ、働きながら大学へ進学する道を選んだ。その頃から、親身になってくれた担任の先生に心打たれ、翠川は教師を目指すようになった。
翠川は頂上にたどり着いた満足感に浸り、息を整えながら、街並みを眺めた。
視界の中に、翠川が通っている大学のキャンパスが見える。
講堂に実験室、テニスコートに、カフェテラス。
お金のない翠川は、国立大学を選び、合格した。
華やかな印象のある私立よりも、今の大学は古臭さこそあるが、歴史と風格という重みが、そこにはあった。
それに、十分過ぎる程の、華やかさだ。
貧しかった翠川には、素晴らしい環境だった。
この先も続くと過信した景気が減退し、過去の膨大な負債が、次の世代に重くのし掛かる。
そんな悪夢が決定的となった頃、社会は戸惑い、明から様に輝きを失いつつあった。
土砂降りの雨が止み、自転車のペダルを一生懸命に漕いで、翠川は民家の間を縫うように細い坂道を上がった。
噴き出した汗の粒が目に入らないように、首を振って、汗を千切る。
坂道の頂の寸前に、堪らず立ち漕ぎし、いつしか民家が途切れ、石ころの多い丘の上の坂道を、歯をくいしばって上りきった。
自転車のスタンドを立て、翠川はその場に座り込む。
眼下には我が街が、広がっていた。
大学に通うため、翠川は郷里を離れ、この街へやって来た。
高校生だった頃、成績優秀だった翠川に対し、学校側は進学を強く勧めたものの、翠川の家は貧しく、両親は商店街の小さな喫茶店を営むことで、精一杯であった。
仕送りを期待出来なかった翠川は、高校の担任の先生から貰った助言を受け入れ、働きながら大学へ進学する道を選んだ。その頃から、親身になってくれた担任の先生に心打たれ、翠川は教師を目指すようになった。
翠川は頂上にたどり着いた満足感に浸り、息を整えながら、街並みを眺めた。
視界の中に、翠川が通っている大学のキャンパスが見える。
講堂に実験室、テニスコートに、カフェテラス。
お金のない翠川は、国立大学を選び、合格した。
華やかな印象のある私立よりも、今の大学は古臭さこそあるが、歴史と風格という重みが、そこにはあった。
それに、十分過ぎる程の、華やかさだ。
貧しかった翠川には、素晴らしい環境だった。



