蕾の妖精たち

「吸うのですか」

「ええ、アメリカで煙草を覚えたの」

 舞子は溜め息を付くように、煙を吐いた。

「貴方の私立高校に、私も働くことにしたの」

「えっ」

「お金に不自由はしてないわ。でも、郷里から貴方と同じ大学に進学し、一緒に勉強して教員免許を取ったの。それに、貴方のアドバイスを聞いて、語学留学までしたわ」

 そこまで言って、また、舞子は煙草を大きく吸って、吐き出した。

「だから私は、れっきとした教師なの。英語を教えられる先生なのよ」

 ジリジリと煙草が溶けてゆく。

「貴方の仰ることは、よく分かりました。しかし、どうして僕の勤める高校なのですか? いつまで付きまとう気なのですか」

 翠川は、郷里にいた時からずっと思っていたことを、初めて口にした。


「気付いてないの? 私は貴方が、翠川孝之が好きなのよ」

 それは、突然というより、唐突だった。お互いに大人になり果てた末の、舞子の告白だった。

「今更、何を言い出すのですか?」

「私、おかしなことを、言ったかしら」

「住む世界が違うって、言った筈です。小さい頃から商店街でそう教えられてきました」

「それは政治でしょう? 商店街が廃れたのは、確かに私のお父さんがショッピングモールを建てたから。だからって、私には関係ないわ。貴方はちゃんと私のことを見ててくれたの?」