健太はあたしの手を当たり前のように引く。



『亜季が泣きそうな時は、こうするのが一番』


健太はそう言って、穏やかに微笑んだ。



その笑顔が大好き。


あたしの恋が始まった時も、健太はあたしの傍でそんな顔をしてた。


ずっと、ずっと、大好きなのに。





『…ありがと、元気出た』


あたしには、今のあたしには、こう言うことしか言えない。


あたしが笑うと、健太は“カラオケ行くべ”なんておちゃらけて言った。



健太は昇降口で、靴に履き替える直前まで、あたしの手を離さずに引いてくれた。






『ねぇ、健太?
 もしさ…由奈ちゃん以外の子が健太に告白してきたら…どうする?』


健太はあたしの問いに笑いながら、靴に履き替える。



『なに、その愚問』



『…例えばの話だよ、ほら、健太の仲いい子がある日突然、告白してきたら、どうする?』


健太の仲いい子。

あたし、とは言えなかった。

それはあまりにも具体的な答えが返ってきてしまいそうだったから、怖くて…




でも、健太はすっごい真面目な顔を見せる。



『仲がいいなら、きちんと断るよ』



…え…?



『俺は由奈ちゃんが好きだし、その代わりなんていらない。
 それに、告白をしてきてくれた奴が俺にとって大事な人なら、尚更、中途半端な答えは悪いじゃん。
 だから、きっぱり断るよ、俺』


そう言った健太が本当に凛々しくて、かっこよく見えた。



『…そっか…健太って一途なんだね…』




『え、みんなそうでしょ?
 一番はいても、二番はいないでしょ?
 亜季は違うの?』



一番は、あんただよ…


そう言いたくて、でも言えない言葉を必死に飲み込む。




『…あたしもそう思うよ』




『てか、亜季って好きな奴いるの?
 俺、亜季からそういう類の話を聞いたことないんだけど』



あんた、だって。


でも、言えない。



『ねぇ…さっきの続き。
 もし、その人の告白を断って、関係性がなくなったら…健太はどうする?』



『そうしたら、それは仕方ないよ。
 一番以外はありえないんだから、一番の人さえいれば我慢できるよ』



…一番以外はありえない…か…。


それに関係性がなくなっても我慢できるってことは、あたしが健太にフラれたら、それって幼馴染にも戻れない、そう完全に言ってますよね…?


あたしと断定してなくても、そういうことだよね…?





『そうだね、健太は由奈ちゃんが一番なんだもんね』



そう健太に言ってて、自分がバカでバカで仕方ない。





あたしはこの恋を貫き通したいのか、この“幼馴染”という関係を守りたいのか。


どっちだろ…