『えーあたしは嫌だよ、あたしの方が早起きしなきゃいけないんだから。
女の子の支度は大変なんだからね?』
健太の言葉が本当は嬉しい。
でも、“幼馴染”の関係でいるためには“嬉しい”と素直に言えない。
『…あ…』
あたしの声に、健太の足が止まる。
ちょっと前に由奈ちゃんと友達が笑い合いながら歩いているのが目に入ったから。
頬を赤く染めて、身動き一つ取れないくらい固まってるくせに、その目だけはあの子を追う。
そういう姿を見て、健太は本気であの子のことが好きなんだなって、痛いくらいに感じる。
『健太…本気であの子のことが好きなんだね』
あたしの言葉に健太は頷く。
その強い、強い瞳で、あの子を見つめながら…。
『健太さー…
そんなに好きなら由奈ちゃんに告っちゃえばいいじゃん?』
でも、健太は何も言わない。
聞こえてるはずなんだけど、でも健太は話さない、動かない。
そんなに、そんなに、あの子が好き…?
あたしの中に再び黒い思いが募っていく。
『…好きだから、怖い…』
やっと健太が話した、そう思ったのに、すっごい切ない顔をして、そんなこと言って。
『…もしフラレたら、俺の今の気持ち、どこにしまえばいいの?
そう考えたら、誰かに先越されることも怖いけど…それも怖いよ…』
フラレたら…
あたしが控えてるよ?
あたしが受け皿になるよ?
健太があの子を想うように、あたしだって健太のこと想ってるんだから。
あんたがケジメつけてくれなきゃ、あたしだってどうしていいか分かんないよ…。
でも、心ではどんなにそう思っていても、本人には言えない。
『そんなさー暗い方向ばっか考えてないでいい方向にも物事考えなよー』
そう、あたしはいつだって、健太の恋の応援をする人。
それが、あたしの立ち位置。
それが、幼馴染としてのあたしの役割。
本当はもっとひどいことを考えてる。
でも、あたしは健太の好きな人になれない分、健太を一番に理解してあげられる人になりたいから。
今日もこうして自分の気持ちを押し殺して、健太に笑顔を見せる。

