『亜季、俺、一応男だよ?
男は花束もらっても…』
健太は少し困った顔をしている。
照れくさいのかな…?
『いいじゃん、健太にどうしても送りたかったの!』
あたしは強引に健太の手に持たせた。
健太はやっぱり困った顔をしてるけど、あたには気にせず言葉を続けた。
『健太、毎年、あたしの誕生日には黄色のチューリップの花束をプレゼントしてくれて、本当にありがとう』
『本当に嬉しかったよ。
花束をもらえて、あたしいつも幸せだったから。
健太にもいつかお返しをしたいなって思ってたんだ』
あたしの言葉に健太はクスって笑って、
『毎年、俺の誕生日、クリスマスだってくれんじゃん?』
『違うよ、健太にこの花束を送りたかったの!』
『…まぁ、ありがとう』
健太はそう言って、照れくさいのか、一人歩き出す。
あたしはその背中を見つめる。
『健太!』
あたしの言葉に健太が振り返る。
『亜季、どうした?』
健太はそう言って、あたしの元に引き返そうと最初の一歩を踏み出す。
『健太、黄色のチューリップの花言葉、知ってる?』
あたしの言葉に、健太は足が止まり、そしてあたしが渡した黄色のチューリップの花束に目をやる。
『花言葉?』
『そう、どんな小さな花でも、花言葉ってあるの。
チューリップにももちろん花言葉はあってね?
チューリップの黄色の花言葉は…』
そこまで言って、あたしはひと呼吸を置く。
『黄色のチューリップの花言葉は?』
健太の言葉に、生唾を呑み、そして、答える。
『黄色のチューリップの花言葉は、“私はあなたの恋が上手くいくように応援します”って意味なんだよ』
『…………』
『健太、由奈ちゃんのところに行って、誤解を説いてきなよ?
健太はあたしとの時間がなくなって、生活の雰囲気が変わったから戸惑ってるだけだよ!
健太、あたしは、健太の恋が幸せに溢れるように、笑顔がたくさんの恋になるように、そう願うよ?
だから、その花束を健太に送ったの!』
健太は花束を見つめ、そしてあたしに視線を変える。
そんな苦しい顔をしないで?
もう健太が、健太の選んだ恋に戸惑わないように、健太の選んだ恋が健太を幸せにしてくれるように、あたしは離れるから。
幼馴染もやめるから。
『でも、きっと健太は優しいから…
慣れるまで時間かかるでしょ?
せっかく両想いなんだから、いっぱい幸せにならなきゃ!
だから…あたし、健太の幼馴染、辞めるね!』
あたしの言葉に健太の目が大きく、そしてすぐに唇を噛み締め、悔しそうな顔をしていた。
『健太、バイバイ』
あたしはそれだけ言って、健太を追い越し、そのまま家まで走って帰った。
一度も振り返ることもしないで。
バイバイ、健太…
バイバイ、あたしの初恋…
バイバイ…あたしの一番大好きな人…