『今日、健太ってここに来てんでしょ?』
トイレの入口のドアが開いて、それと共に聞き覚えのある名前があたしの耳に入った。
健太って…
健太のこと?
『…うん』
『由奈さーチャンスじゃん!
偶然一緒のカラオケに来てたんだねー的な話から一気に告っちゃいなよ?』
今、由奈って言ったよね…?
それに告っちゃいなよって…。
『うーん…でもあの子も来てるでしょ?
なんかあれだけべったりだと言いにくいよー』
可愛らしい、あの子の声があたしの耳に入り込んでくる。
あの子って…あたしのこと…?
『えーでもただの“幼馴染”でしょ?
ただの幼馴染だったら健太が由奈と付き合おうと関係ないっしょ?』
『…そーかな…』
『元気だしなよ、てかちょっと行ってみよ』
友達に誘われ、トイレから彼女たちが出て行く。
今、由奈ちゃんが健太のもとに向かってる…?
もし、健太だけの今、由奈ちゃんが見つけて、部屋に入ったら…
健太は絶対に拒否しないだろうし…
由奈ちゃんは健太に告っちゃう…
そんで、健太は…
でも、足が動かない…
どうして…?
なんで…
あたしは自分の足を何度も何度も叩いた。
動いてよ…
じゃないと、健太が…
健太が由奈ちゃんと付き合っちゃうよ……
やっとのこと動いた足、でも部屋に戻るのが怖い…
一歩一歩部屋に近づく度に、あたしの心臓の鼓動は速くなっていく。
神様、どうか、お願いします。
由奈ちゃんが健太を見つけていませんように。
どうか、由奈ちゃんが健太に告ってませんように。