みんなが思うような一途な人ではなかったというのに。

私の前では「よく出来た恋人」を演じていたのに、彼女や他の人の前では「一途な恋人」を演じていたなんて、ある意味器用な人だ。

未練はないけれど、事実を知っているだけに安易に喜べない。


「紗菜さん、直接お祝いを言いに行きましょうよ」


朱莉に腕を引かれて、雅也さんの前へと飛び出した。


「岸本さん、おめでとうございます!」


「おめでとうございます…」


弾む朱莉の声とは対称的に私の声は低い。それでも、雅也さん自身も浮かれているのだからか、私の声は気に止められることはなかった。


「久保さんも、河原さんもありがとう。いやー、なんか照れるね」


嬉しそうに首の後ろを掻く姿は、本当に幸せ真っ盛りという感じた。浮気をしていた人には見えない。


「幸せになってください」


「うん、ありがとう」

手放しで喜ぶことは出来ないけど、雅也さんの幸せは願える。奥さんを幸せにしてあげて欲しい。もう二度と他の女に揺れることなく、奥さんだけを見ていてあげて欲しい。