「全然とはいえないけど、気持ちは落ち着いてきてるよ。心配してくれてありがとう」


「なら、良かったけど…」


圭司が何か言いたそうな顔をする。しかし、なかなか口を開かない。


「なに?」


「いや、別に…いや、別にじゃないけど…」


「圭司…何が言いたいの?」


すぐに口を開かない圭司は珍しい。何を躊躇っているのだろう。取ったメロンを口に入れ、首を傾げた。圭司も同じようにメロンを口に運ぶ。話すつもりはないだろうか。

圭司の後ろの方で、ステージの方へと向かう社長が見えた。社長は最後の挨拶を終えたら、例年のように退散するはずだ。

社長が退散するとあとは自由である。あと一時間は貸し切ってあるから、このまま残る人もいるし、場所を変えて飲み直す人もいるし、もちろん帰る人もいる。

私は、このまま残って、時間になったら帰ろうかな。とりあえず、朱莉のところに移動しよう。


社長の挨拶が終わったあと、そっと立ち上がる。


「じゃ、お疲れさま」


「紗菜、帰るなら…」


「え、なに?」