過去恋に今の鼓動を重ねたら

一つ一つのテーブルを回ったので、十分だと思われるけれど、社長にはまだちゃんとした挨拶の言葉が必要らしい。大変な立場だな、


「ああ、分かった。じゃ、トイレに行ってから行くから待っていて」


かなり飲んでいると思われるのに、しっかりした足取りで歩いて行く。酔って上機嫌には見えていたけど、酔い潰れることはないのだろう。

さすがトップの人間だと感心する。

社長がいなくなっても、誰もこのテーブルに寄り付かない。他のテーブルに移動したいが、圭司一人を残していくことが躊躇われて、誰も手を付けていなかったフルーツ盛りに手を伸ばした。


「紗菜。社長の言うことは気にしなくていいけど、大丈夫か?」


「え、何が?」


「何がって、彼氏とのことだよ」


ここで名前を言うのを躊躇ったのか、遠慮がちに彼氏と言ってきた。だけど、もう彼氏ではない。

元カレと言えば、いいのかな?ちゃんと付き合っていたどうかも今となっては、怪しいけど。