雅也さんは軽くため息を吐いてから、ここを出ようと動く。圭司の相手をするつもりはないらしい。ドアの前まで進んだ時、圭司から後ろから声を掛ける。


「ちゃんと河原に話してくださいよ」


何も答えることなく、雅也さんは出て行った。私も行かなくてはならないけど、足が動かない。


「紗菜」


雅也さんの前で名字で呼んでいたのは、誤解されないためだろう。私も「真島くん」と言っていた。やましいことはしていないと思っていても、意識して変えてしまう。

やっぱり狡いな。


「何かあったら、いつでも言って。何時でもかまわないから…いつでも紗菜を想っているから」


「圭司…うん…」


これから、何が起こるというのか分からないけど、頷く。圭司を頼るようなことがあるのだろうか。

雅也さんは何かを隠しているようだった。

私が知らなくて、圭司が知っていることは何?

とてつもなく不安になってきた。