噂の的にならなかったのは助かったけど、何か目論見でもあるのかと勘繰ってしまう。あれから2週間経って、何もないが。


「失礼しまーす」


「あ、ほら、噂をすれば、真島さんですよ」


声だけで圭司だと分かったが、朱莉が私の左肩を揺すって知らせる。勝手に噂をしていたのは朱莉だ。

朱莉が対応してもいいのに、立つ気配がない。知らされた手前、動かないわけにはいかないか…朱莉なりに気遣っているのが読み取れるし。

見ていた書類から目を離して渋々と、声がした方を向く。今週、初めて見る圭司がカウンターで紙をひらひらさせて、手招きする。

行くか…


「お疲れさま。出張、終わったの?」


「うん。旅費精算書、持ってきたから頼むよ」


「うん、預かるね」


ホテルの領収書が貼付されている精算書を受け取り、間違いや抜けている箇所がないか確認をする。不備が見あたらなかったので、未承認箱に入れた。このあと、課長と部長の承認を得ることになる。