「何、泣いてるんだ?」
矢木さんの声で現実世界に引き戻される。
「君が泣く事ではないだろう」
「…や、あの」
慌てて涙を拭ってみても、もう遅いってね。バッチリと見られてしまった。けど、そんな俺を冷やかすでも揶揄うでもなく。
真っ直ぐな視線をそのままに、矢木さんは口元に手を添えぽつりと独り言のように呟いた。
「君は、感情豊かだな」
「え?」
「……先生に似ているよ」
見間違い、じゃなければ。
ほんの一瞬だけど柔らかな笑みを浮かべてくれて。それは、俺越しに先生を思い出したんじゃないかと、少しだけ胸が痛んだ。
「さて、要らん話をしたな。此処からが本題なんだが」
ごほんと咳払いをしてリセット。瞬間、彼女の瞳がとても真剣なものとなり、俺も負けじと背筋を伸ばして心構えを改めた。
「先生のな、遺体が消えたんだ」
「遺体が消えた?」
「…ああ、そうだ」
矢木さんは一度、深く深呼吸をし。葬儀の前の日に忽然と遺体がなくなっていたらしいと。そう続けて、とても悔しそうに俯いた。
それはそうだろう。
最愛の人の遺体が消えるなんて、そんな馬鹿な話があって良いわけがない。
「―――」
厭な沈黙が流れる。
けれど、その沈黙を破っていいのは当事者だけだと解っているから、無言を貫いた。



