「なあ、これは明らかにおかしい事だよな」
怒りの色を含んだ真剣な瞳に射貫かれ、私はまた素直になれない。本音を口に出来ない。言えない、とても。
「校長と話してくるよ」
「…先生」
「勇気、充電させて?」
はじめて、触れられた箇所がひんやりと冷たく。じくりと痛かった。
「よっし!じゃ、俺さっそく行ってくるから。……ユズリ、また明日な?」
「…っ!」
なんで私はこの時引き止めなかったんだろう。大好きな先生の笑顔、よく見えなかったのに。胸がざわついていたのに。
暑い、暑い、日だった。
外では飽きる事なく油蝉たちの大合唱。その鳴き声が余計に暑さを増長させた。夏の日差しがジリジリと全身を焦がしていく。
翌日、先生は学校に来なかった。
少しだけ落ち着きをなくした教室。私は何故か動くことが出来なくて。副担任の耳障りな声を聞きながら、背中に冷たいものが流れていく感覚を人知れず味わっていた。
『ユズリ、また明日な?』
先生、
先生の笑顔が思い出せない。
何処へ消えてしまったのだろう。なにをしているのだろう。早く先生に会いたい。会って、確かめたい。安心したい。安心させてよ先生。いつものように。
ただ、笑ってくれたら。それだけで、
「………なん、で、」
やっとの思いで先生に会えたのは、その日の晩の事だった。コツコツとローファーの踵がリノリウムの床の上で悲鳴を上げる。
「先生、せん…せ…」
病院の、霊安室。先生はもう、二度と私に笑いかけてはくれなかった。もう、二度と。



