「……離せ」
「やだ、離さない」
囚われた手首が熱い。灼ける様に。熔けそうなほどに。
「淫行教師」
「ふはっ、酷い言われようだなあ」
「ロリコン」
「なんとでも」
「…莫迦」
「なあ、ユズリ。……なんで俺達はもっと早くに出逢えなかったんだろうね」
先生は、泣き声みたいに。小さく、弱々しく。不可思議なことを言った。まだ子供だった自分にはその言葉の意味が解らなくて。
「え?」
頭のなかにクエスチョンマークを浮かべるだけで精一杯。だって私は、遅かれ早かれ先生に会えたことが嬉しかったから。
「ごめん、何でもないよ?」
そう言って先生は、ゆっくりと私への拘束を解き乍ら微笑んだ。柔らかく、儚く。
「さっきの話の続きだけどさ、俺はしゃぼん玉になりたい。割れないしゃぼん玉にね」
しゃぼん玉
「ユズリ、屋上好きだろ?」
「……嫌いじゃあない」
「もー!ホント素直じゃないお嬢さんだこと!…ま、そこがユズリの魅力でもあるか」
「黙れ似非フェミニスト」
「ははっ!容赦ないな。まあ、って事だからさ。頼むよ。此処から天まで届くように、ユズリが飛ばしてくんない?」
「……そんな、」
「ん?」
「今直ぐ死ぬような…」
ざあと、生暖かい風が通り抜けていく。
先生は何故だか解らないけど、少し困ったような顔で笑っていた。笑っていたんだ。



