断罪校則

――パン!

渇いた音が、屋上全体に響いた。

「ってぇ…!」

音が自分の耳の中を貫通するよりも先に、頬は痛みを覚え。顔は向きを変えていく。

「何すんだよ!和也!」

正直に話を終えた後の唐突な仕打ちに、俺は大声を張り上げた。そして、キッと和也の方を睨むと、そこには目から大粒の涙を流す和也の姿があって。

「……和也?」

怒りはすぐに心配へと変わっていく。だって、そうだろう。和也が“泣く”だなんて。和也が涙を流すのを見るのは、長い付き合いでもこれで二回目。たったの、二回。

和也は、極端に人前で泣く事を嫌う。

中学校最後の県大会で優勝を逃した時も泣かなかった。可愛がっていた愛犬が死んだ時も泣かなかった。俺達が大好きだった先生が事故で死んだ時も、泣かなかった。


後にも先にも、和也が俺の前で泣いたのはあの日あの時だけ。

そんな和也が今、目の前で涙を流している。唇を噛締め、制服の裾を握り締め、ぽろぽろと涙を流している。

「なあ、和…」
「…バカ…ヤロ…」

「亜貴は大バカ野郎だよ!」

震える声で、そう叫ぶと。和也は乱暴に涙を拭い、ゆっくりと天を仰いだ。


「――――――ネ…」

まるで、タイミングを計ったかのような春の暖かい風。暖かくも、激しい突風に煽られ。大切な言葉が隠されてしまったような気がしたのだけれど。

俺の方を向き直した和也の瞳を見てしまえば。聞き返すという選択は、自然と頭の中から消えてしまっていた。

「一人で全部背負い込んで、本とに亜貴はバカ野郎だよ」
「…和也、」
「この迷路から抜け出そう」
「え?」

「おいっショーーー!」

唐突に、今度は自分自身の両頬をおもいっきり叩き上げる和也。

「約束は、破る為にアルんだよ?」

見るからに痛そうな、赤く色付く頬を見ながら俺は困惑した。そう、自分には矢木さんとの約束がある。とは言っても、かなり一方的なものだけど。寧ろ、押し付け?

「や、一応さあ…」
「ダイジョーブ。バレなきゃ良いんだよ、バレなきゃネ?」

ニヤっと人の悪い顔をして、和也は白い歯を見せる。遠くで鳴る予鈴をバックに、俺もいよいよ覚悟を決める時が来てしまったようだ。

「亜貴だって早く抜け出したいでショ?」

それは、そんなの、

「―――」

答えのかわりに、ゆるりと拳を突き出せば。骨と筋肉のぶつかり合う音が鳴る。俺達の、決まりの儀式。

「じゃあ、今日の放課後から打倒ハゲ校長作戦会議な!」
「相変わらず、ネーミングセンス無いネ」
「何でだよ!大体さあー」





俺はまだ気付いていない。

この日を境に、もっと複雑な迷路に迷い込む事になるなんて。巧妙にばら撒かれた点と点が、綺麗に繋がるだなんて。

俺達は、気付かない。