芽衣の母親の目に涙がにじむ。

 私は唇を噛み、頷いた。
 本当はもっと詳しき事情を説明したほうがよかったのかもしれない。
 それでも、うまく言葉が出てこなかったのだ。

「そう。教えてくれてありがとう」


 彼女は唇をかみしめた。

 その時、チャイムが鳴り、彼女は目元の涙を拭う。

「ごめんなさいね」

 彼女は私に断ると部屋を出ていく。

 だが、彼女はすぐには戻ってこない。宅配便や、親しい友人が訪ねてきたのとは違う、淡々とした話し声が聞こええる。

 私は妙な胸騒ぎがして、先ほど芽衣の母親が出ていった扉のところまで歩いていく。

「結構ですからお引取りください」

 そう冷たく言い放った声が響いた。

「そんなことおっしゃらずに。ただの気持ちですから」

 私はそのやり取りが気になり、襖をあけると、中を覗く。

 すると、そこにはスーツを着た四十代半ばの女性の姿があり、彼女はスーツケースを手にしている。