私は優香の母親の腕を掴んだ。

「少なくとも熱が下がってから話を聞いたほうがいいと思います。何も言うなとはいわないし、しっかり怒ってほしい。でも、できれば優香さんが精神的に落ち着くまで待ってあげていてくれませんか? 私で良ければ知っていることをお話します」

 優香は私が考えているよりも精神的に弱い人間だった。今母親に責め立てられたら彼女がどんな行動を取るかくらいは想像がつく。

「分かりました。その子の家はどこかご存知ですか? せめて謝罪に」

 私は首を横に振った。彼女は最低限の良識を持ち合わせているのだろう。


 私は彼女の両親が既に引っ越したということは伏せておくことにした。彼女との約束だったからだ。

「永田芽衣さんの母親は、その関係者とは二度と会いたくないとおっしゃっていました」

 優香の母親は椅子に倒れ込むように座り、呆然と天井を見上げていた。