そして、この4月からキーボード担当の人が社会人になるから今日のライブを最後に抜けるんで、3歳から中学2年までピアノ習ってた僕に、代わりに入れ入れって、このところ顔合わせる度に言われ続けてる。で、とりあえず1回見に来いって、誘われてたんだけど、僕、美術部だし、バンドに興味がイマイチないんで、断り続けてた。だから、捕まりたくなかったんだよなぁ。

「で、ホントは何処行くつもりやったん?」

自転車を掴んだまま笑くんは僕の顔を覗き込んだ。うっ、緑龍の女の子探しに行くところだなんて、言えるわけないじゃん。

「…ちょっと散歩?」

うっ、自分の事なのに疑問形で答えてしまった。

「ふ〜ん。ま、ええけど」

笑くんは、全然納得いってない顔だったけど、自転車から手を離した。