「あんたのことまだ好きってことじゃない?ほら、別れて初めて大切さに気付いたみたいな」


冗談か本気か、よかったじゃん!なんてはしゃぐ親友に、私は何も言えずにいる。そうだね、と返すことすらできないままで、また彼を思い出している。


幸せになりたいから、別れよう。


頷いた彼の表情を思い出している。あれからずっと私を見ているあの目を、思い出している。


「ほら、噂をすれば」


指さされた先で、また、目が合った。離れた場所から、たくさんの女子に囲まれた真ん中で、やっぱりあの目が私を見ていた。

私は気付いている。

あの目は、別れた彼女を恋しく想うような、あたたかいものではないことを知っている。別れて初めて大切さに気付いた。そんな生易しいものではないことを知っている。

あれは、あの目は。


「本当にずっと見てるね、あんたのこと。より戻すなら今なんじゃない?」


嬉しそうに耳打ちする親友の声をどこか遠くに聞きながら、渇いた喉から何かが這い上がってくるのをどうにか誤魔化してしまいたくて、目を閉じた。



【捕食者の目】

(昔テレビで見た、シマウマを取り逃がしたライオンの目。その目が私を見ている)