「ちょっとォ、オレのこと忘れてなーい?」

また誰かが来たようだ。

佐月が声がした方を向くと、背の高い女の子が教室の出入口前に立っていた。

ミディアムヘアを首の後ろでゆるく結んで珠で留めていて、膝まで届きそうな長い藤色のパーカージャケットと、男子の緑のネクタイに女子のスカートという妙な格好をしてる。

「オレを置いて楽しんでるとか、超ずるいー!オレも混ぜてー!!混ぜろー!!」

「あ、藜(あかざ)先輩!」

「遅かったですね~、どこへ行かれてたんですか?」

「論土と一緒でちょっと本クラスの方にね。
オレ、学年の人気者だからさぁ、足止め食らって遅くなっちったわ~」

頬を掻きながらこちらに歩いてくる、藜と呼ばれた彼女。

すらっとした脚は見事な脚線美を描いている。

ふと、見慣れない存在に気づいた藜はくるりと佐月の方を向いた。

カゴメとは違い、ほとんど化粧をしてないのにハーフモデルのような顔立ちをしてる。

「おー?君が新入りの子?佐月くんだったかな?」

背の高い体を折るようにして佐月と目線を合わせる藜。

髪から花のような甘い香りがして、佐月の心臓が高鳴る。

また顔が赤くなるのがわかった。

「!!」

「お、おい!佐月くん、惚れたらアカンで!藜先輩はな……!」

「水晶、ストップ。ここからは自分で話したいな。その方がオモシロイ」

藜はすっと人差し指を口元に当てた。

惚れるなという方が難しいくらい美しい仕草だ。