「冗談だよ。門の前で喧しく自分の名前名乗ってるのが聴こえたんだ」
春亜のオーバーなリアクションが面白いらしく、季希は片方の拳を口元に当て、クスクス笑った。
鼓の話から、不健康で暗い子だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
良かった。春亜は肩を撫で下ろした。
「あ、ねぇ季希!お菓子食べない?」
ここぞとばかりに声を掛ける鼓。
また閉じこもらないように、部屋から遠ざけたいようだ。
「……そうだな、最近鼓姉の手作りお菓子食べてなかったし……食べる」
本人は平静を装っているみたいだが、目が輝いているのが春亜にも分かる。
なんだか思ったより面白そうな娘だ。春亜はすぐに季希と友達になりたいと思った。
鼓、春亜、季希の三人はリビングに移動する。
紅色のソファに腰掛けると同時に、季希はすぐにクッキーに手を伸ばした。
サクサクサクと口いっぱいに幸せそうに頬張ってる姿を見ていると、ついさっきまで引き篭もってたように見えない。
春亜が季希を見ていると、視線に気付いた季希がこちらを向いた。
「何?ボクの顔になんか付いてる?」
「あ、いや、何でもない……」

