「莉緒はさ、誰かと出会ったときに心が高ぶったことはある?」
「なんですか、いきなり」
心が高ぶる……あるよ。
……長谷川先輩と、出会ったとき。
「俺さ、ぶっちゃけ莉緒に一目惚れしたんだよね」
「……へっ?」
「莉緒がいつも長谷川先輩をみてたの知ってた。廊下でも、授業中でも、放課後も。そんな莉緒の真っすぐな目にさ、俺惚れたんだよ。この子はどんな風に話すのかな、どんな風に笑ったり怒ったり泣いたりするのかなって」
「……ストーカー」
「うるせっ。
……莉緒に会ったとき、自分の心が震えたの覚えてる。
俺さ、今まで人生つまんなかったけど、莉緒に会ってからはすげー楽しいよ」
「人生つまんなかったって……なんでですか? 先輩、成績もいいし、モテモテなんでしょう?」
「そりゃ、親からも先生からも期待はされるけど……俺、なりたいものとか、やりたいこととかなくてさ。やれば何でもできちゃうから、できるようになるまで夢中になることもない。周りからは羨ましがられること多いけど、俺は、莉緒みたいに何かに一生懸命に夢中でいる方が、羨ましいよ」
先輩の切なそうな目に、私はそっと上を向く。
「私は……得意なこととかとくにないし、好きなこともないです。だから孝先輩の気持ちはよくわかりませんし、何でもできちゃう先輩が少し羨ましいとも思います。でも、良いと思いますよ」
「え?」
「何かに夢中にならなくたって、何かに一生懸命にならなくたって、先輩が少しでも楽しいと思えるのなら、夢中にならなくても、一生懸命にならなくても、それでいいんじゃないですか?」
私がそう言うと、孝先輩は少し目を丸くして、そして嬉しそうに笑った。
「俺……やっぱ、莉緒のこと好きだな」
「……先輩のそういう直球なところ、なんとかならないんですか」
「サンキュ、莉緒。元気もらった」
そう笑う先輩を見て、私もそっと微笑んだ。

