配達も終わったときには、すでに日が暮れ始めていた。
若葉は何も言わずにあたしの前を歩いていた。
昨日の今日であるため、お互いに何を話せばいいのか分からなかった。
ふっと、頬をあの優しい感触が伝う。
それは、あたしが植えた桜木の花びらであった。
「随分と散っちゃったね…。」
あたしの声に答えるように、若葉は立ち止まり桜木を見上げた。
「少し、あたしの話をしてもいい?」
若葉はあたしを見つめ、答えた。
「いいよ。」
「あたしね、小さい頃から自分が長くないこと、知ってた。
だからね、後悔しないように、やり残したことがないように生きようとした。
お母さんにも迷惑をかけないようにしてきた。
近々いなくなってしまうことが分かっていたから、友だちも作らなかった。
1人でいることの方が楽でいいと思っていたの。
でも、紬さんに言われたんだ。
寂しくないの?って…
できないことは最初からやらないってことで、なんだか寂しいわよって
言われてはっとした、確かにできないことは最初からやらないようにしていたから。

