「山田さん、ありがとう。」
「お安いことじゃ。」
「だから、この手いい加減放しません?」
いまだに両頬をつねられたままであった。
山田さんはすまんすまんと言いながら手を離したが、
「桜ちゃん、その顔…、おもしろすぎよ。」
両頬は赤く腫れており、ゆでだこみたいであった。
紬に鏡を見せられ、自分の顔を見た。
自分でも笑えるくらいであった。
「もうー、山田さんのせいだー!」
山田さんも紬も笑うから、あたしもおかしくて笑った。
その声につられたように若葉が顔を出すなり、噴き出した。
「お前、何だよ!その顔ー!!!」
みんなで笑った。
これがこの10年後の世界で笑った最後であった。

