「桜ちゃん、したいこととか、やりたいこと、なんか見つかった?」
紬が花に水をあげながら尋ねる。
「いえ、今はなんとも…。ごめんなさい。」
「何も、謝ることはないのよ。桜ちゃんは何も悪いことしていないんだからね。」
紬があたしの頭をいつものように撫でる。
「こんにちは。」
花屋の扉が開く。
お得意様である山田さんであった。
「おやおや、今日の花屋さんは湿った空気がしているね。」
山田さんは花屋に入るや否やあたしたちを見て声を出した。
「湿った空気を出しているのは、桜ちゃんかの~。」
しわくちゃな、手であたしの頭をぐわんぐわんと掻く。
「も、もう。山田さん、髪がぐちゃぐちゃになっちゃいますよ。」
いつまでも止まらない山田さんの手を掴みながら言う。
「お前さんが何を考えているのか、年寄りのわしには分からんがな。自分の気持ちや想いを無理やり閉じ込めようとしちゃあかんよ。こころがパンクしてしまうからね。」
山田さんの言葉にはっとした。
この人は、どこまで見えているのだろうか。
「どうしたらパンクしないんだと思う?」
「どうしたらパンクしないんですか?」
山田さんの強い視線から逃れられない。
でも、怖い感じはしない。
どこか大きくて、温かい気がする。
「それはね……」

