目の前の少女が何を口にしているのか、分からなかった。



「あたしが10年前の4月16日に死んだってこと。」



微笑んで話す、その少女は怖いくらい冷静であった。



俺を真っすぐ見つめていた。
嘘なんかついているようではなかった。




「はぁ、変なこと言ってんなよ。ほら、帰るぞ!」
俺は早くこの場から立ち去りたかった。
そうしないと、この少女が消えてしまいそうな気がした。




「なぜ、タイムスリップしたのが10年後の世界だったのか、それはわからないけど、あたしは笹本桜。10年前の4月16日に死んだのよ。」




俺は何もかもが嘘であってほしいと思った。



「あたしが10年前に戻るということは、死ぬってことなのかな?」




今まで、微笑んでいた少女は涙を浮かべていた。



俺は自然と壊れそうな少女を腕の中へと抱きしめていた。