「お待たせしました!」
「桜ちゃんや、ありがとね。」
この人は、山田さん。
あの日、黄色い花の植木を買った人。
のちに、紬に紹介されたときに謝ったところ、何も悪いことはしていないんだからとほほ笑んでくれたおばあさん。
改めて、あたしの育った町はいい人ばかりなのだと思った。
「桜ちゃんが来てもう、2週間か…。何か、元の世界に戻るヒントとか見つかった?」
紬が花に水を与えながら話した。
「特になんも見つかってないんです…。」
正直なところ、元の世界に戻ってしまうことが怖かった。
元の世界に戻ったら、あたしはもう、この世にはいない。
この世界には生きていないんだから。
暗い顔をしていたんだろうか、紬にでこピンされた。
「いった…。痛いですよ。紬さん。」
「あの日、言ったでしょ?笑っていなさいって!」
「あ、そうでしたね。はい。」
「よろしい。」
この世界に来てからずっと気持ちが軽かった。

