「娘さんの病気は左心低形成症候群といって、左の心室というところが十分に形成されていないため、十分な血液の拍出が出来ない状態にあります…。非常に難治性の心疾患です。」
医師の言葉がよみがえる。
「次の発作があったらもう…」
あたし、死ぬんだ…
泣き叫ぶ母の声が薄れていく。
救急車が止まり、足元のドアが開き、白い服を着た人たちがあたしを建物の中へと運んでいく。
はあ、15年短かったな…
もっといろんなことを見たかったし、感じたかったな…
昨日植えた桜は、ちゃんと成長しているのかな…
大きな花を咲かせていること、見たかったな…
ああ、もう意識が…
「桜、嫌よ!目を開けなさい!ねえ、お願いだからっ、さくらぁぁぁ!!!!」
閑散とした廊下に綾子の悲痛な叫び声が響き渡る。
あたしは静かに目を閉じた。