「名前、ですか?」
「そう、名前。」
「桜。」
「いや、君の名前だって。」
「いや、だからあたしの名前が桜ってんの!」
「えっ、あ…、そうなんだ。ご、ごめんね。」
若葉は、軽く頭を下げながら謝罪した。
そんな様子から、人をからかうような人ではなく、真面目な人なんだなと分かった。
「だからなのかな…。」
「え、何が?」
「なんか、同じ名前の君を待っていたようで、いつもより喜んでいるみたい。のびのびしてるように思うんだ。」
若葉が歯を見せながら笑う。ちょっと不思議に胸が高鳴った。
桜がまた一段ときらめく。
「ほら、また!俺、いつもこの道通るけど、こんなにきれいな桜木は初めて見るかもな!」
もう一度、幹に触れる。
温かさが手を伝わって、心が温かくなる。

