『ケガとかしないで良かったー。危ないから上の方は俺やっとくし、そっちお願い』
この前、委員会の時に、椅子からすっ転びそうになったあたしを支えてくれた吉野先輩。
その表情は、まるで絵に描いたイケメン笑顔だった。
普段の先輩なら
『あぶねー。なにお約束な転び方しそうになってんの? バーカバーカ』
みたいに言ってくれそうなのに。
悔しいし、悲しい。
普段はイケメンキャラを作っていながら、あたしといる時は素の自分をさらけ出してくれる先輩。
俺には本音を吐けよって言ってくれたことや、
角刈りデブメガネ時代を教えてくれたことや、
彼女になってと言ってくれたこと。
1つ1つ思いだすと、胸がきゅっと切なくなる。
嫌だよ、完全に心を閉ざされてしまうのは……。
そしてもう一つ気になることがある。
ノリ坊のことを誤解された後、先輩は人前でも鬱モードを見せていたのに、
その次の日からは、すっかりイケメンキャラを取り戻していた。
もしかして――。
3年の派手女子たちに、女見る目なくなっただの、女々しいだの言われていたの、先輩にも聞こえちゃってたのかな……。
イケメンキャラを崩さないように、ずっと頑張ってきた彼。
ちょっと落ち込んだ姿を見せただけで、そんな言われ方をされてしまう。
『オブチさんはイケメンをお嫌いのようですが、イケメンも結構大変なんですよ。毎日ストレスの連続です』
一番最初に、先輩の凹みモードを見た時、確かそう言っていたっけ。
ストレスのはけ口、かつ、先輩が本性のままで接することができる存在=あたし。
あたしはあることに気がついた。
同時にどくん、どくん、と体に緊張感が走る。

