「……っ!」
気がつくと、あたしは知っている腕の温もりと、爽やかな香りに包まれていた。
椅子が倒れる音だけが被服室内に響く。
「大丈夫? 良かった、間に合ったー」
恐る恐る視線を上げると、目の前にあったのは、
目を細め、ほっと息を吐き出している吉野先輩の姿だった。
あたしは間一髪、先輩に抱き止められ、惨事を逃れることができたらしい。
どき、どき、どっ、どっ、どっ……!
「す、すみません!」
一気に鼓動スピードと体温が上がるとともに、頭の中がパニック状態になる。
急いで、先輩の腕から離れ、ぴしっと直立不動の姿勢になった。
「ケガとかしないで良かったー。危ないから上の方は俺やっとくし、そっちお願い」
聞きなれたイケメンボイス。
その表情は、バラの花が散っているかのような、爽やかなイケメン笑顔。
どきっと心臓が高鳴ったけど、あたしは気がついた。
何かが、違う。
――いや、いつも通りだ。
みんなの前でのいつも通りの、
みんなのアイドル、イケメン吉野先輩の表情だ。

