「吉野先輩!」
とっさにあたしはそう叫ぶと、
先輩は驚いた顔であたしを振り返った後、一目散に走り出した。
「待って下さい!」
かまわず、必死に吉野先輩の腕をつかみにかかった、
その時――。
「でも吉野くんって女見る目なくなったんじゃね? あんな微妙な2年にフラれただけで超おおげさじゃん」
「ぶっちゃけ、女々しいかも……。イメージちょっと崩れた感じする」
ちょうど近くの女子トイレから出てきた派手女子たちが、そう言ってゲラゲラと笑っていた。
あたしたちの様子には気が付いていないらしい。
先輩は足を止め、呆然と立ち尽くしていた。
今の女子たちの会話、聞こえてしまったのだろうか。
「あ、先輩……」
「……っ!」
急にあたしの腕を振り払い、先輩は男子トイレに入り込む。
扉越しにバンッ、ガチャ! と個室に鍵がかかる音がした。お前は女子か!
「やべ、今吉野クンそこ通らなかった?」
さっきの女子たちがそわそわし出すとともに、あたしに視線が向けられた。
あたしのことは別にどうでもいいんだけど、先輩のことを悪く言われるのは、何となく嫌だった。
先輩が閉じこもってしまったので仕方なく、女子たちの視線をかいくぐり、廊下を抜けようとしたが――。
「モモカちゃん、ちょっとちょっと!」
と、スミスさんの声に呼び止められた。

