昼休み、あたしはダッシュで階段を駆け上がった。
校内で先輩に会いに行くことに対して、先輩ファンにどう見られようと今は関係なかった。
しかし、階段を上りきり、3年5組の教室に向かう途中、
何やら様子がおかしいことに気がつき、あたしは足を止めた。
「ねーねー、あの子だよ!」
「マジ? あいつ? うわ、超普通じゃん」
「あ、知ってる。あのくせぇローファーの2年っしょ?」
――え?
嫌な胸騒ぎが、全身に広がっていく。
ひそひそ、クスクス。
昼休みが始まり、騒がしい3年生の教室前廊下にて。
いくつもの人の視線やヒソヒソ声があたしに向けられていた。
ちょっと怖くて、体に緊張感が走る。
よく怪盗もののアニメとかで見られるような、赤外線センサーの罠が、
絡み合うように廊下中に張り巡らされているよう。
どうしよう、いったん出直した方がいいかな……。
そう思いながらも、とぼとぼと足を進めると。
「ちょっとー吉野くーん聞いてる?」
「…………え。あ……ごめん」
「だからー凹んでないで、夏休みプール行ってパーっと遊ばない?」
廊下の柱の影、知らない美女に話しかけられている先輩の姿を見つけた。
うつむきがちなその顔……うつろな目で表情も沈んでいる。
ぎゃー! スーパー鬱モードの顔だ!
こんな公衆の面前でそんな顔しちゃだめだって!

