車や家の明かりが次々と景色を変えながら流れていく。
ぽつりぽつりとしか乗客のいない車内にて。
「う………」
あたしは1人、もんもんとした気持ちを抑えつけるべく、唇をかみしめていた。
何だろう。この気持ち。
一番かゆいとこに手が届かないような。
くしゃみが出そうで出なかった時のような。
はっ! と何かを思い出したけど、あれ……何を思い出したんだっけ? とすぐ再び忘れてしまった時のような。
物足りなさというか残尿感というか何というか。
さっき無意識のうちに描いていたブラックホールが心の中に生じてしまったかのよう。
先輩の家に行く=そりゃーちょっとは胸キュン展開あるかもって思うじゃん?
だって、おんぶしてもらったりぎゅっとされたりしたんだぜ!
……って。
あたしすげー調子乗ってる?
そうだ。あたしみたいなカメムシ的存在が、ヘルクレスオオカブト的な存在の吉野先輩にこれ以上近づけるわけないっ!
(ムシキ○グだったら一撃でやられてるはず!)
しかも――
先輩の成績は学年でトップクラス。
もちろん生まれ持った脳みそアドバンテージもあると思うけど、
それはコツコツと自分で勉強をしている結果でもあるんだ。
あたしも大人しく、しっかりと勉学に励もう……。

