「……あのさ」
先輩はちらっと横目であたしを見た。
急に間近で視線が合い、どきっとした。
「本当、お前可愛くねーよな」
「わかってますよ、それくらい」
「あー違う違う。そういう意味じゃねーよ」
――はい?
どういうことっすか?
訳が分からなくて固まっていると、先輩はぷいっと正面を向きなおした。
「……ごめん。お前いじめられたりして辛かったのに、最近、冷たい態度しちゃって」
「いえいえいえ! あれはあたしが先輩にいっぱい迷惑かけちゃった……」
「かかってねーよ」
先輩はぶっきらぼうな口調であたしの言葉をさえぎった。
「……へぃ?」
先輩の顔を見ようとしたけど、彼はかたくなに道の先を見つめていた。
「俺さ、お前に自分の情けねーとこいっぱい知られてる分、お前に頼られるとすげー嬉しいの。
……さっき手つないできたときみたいに」
「いや、さっきのは腕より手の方が先輩の負担が少ないかな~って」
「いちいちうるせーな。だから、ちょっとは俺に甘えたり、頼ったりしていいよ、ってか、そうして欲しいってこと」
「え……?」
等間隔に設置された街灯が、
あたしたちを導くように白い光をぼおっと発している。
「……俺にはちゃんと本音吐けよ。モモカ」
先輩が優しくそうつぶやいた瞬間、
あたしの心に張られているバリアみたいなものに、ヒビが入った気がした。
ずっとせき止めていた何かがあふれてしまいそう。
今までそんなこと言われたことなかった。

