「じゃ行くか。はい、つかまって」
そう言って、先輩は腕を差し出してくれたけど。
「…………」
あたしは腕じゃなくて、彼の手をぎゅっと握った。
一瞬だけ、先輩は驚いた顔をした後、
ふっと微笑んでから、
そのままあたしの手を握り返してくれた。
あ……いいんだ。
心臓がどくんと大きく鳴りながらも、
心の中が安心感で満たされていく。
「お前、その髪型いーじゃん」
「え、本当ですか? 前髪だけ重くないですか? あたしも先輩みたいにおでこ出せば良かったです」
キャッキャと子どもたちが騒ぐ声と、
風で頭上の花飾りがガサガサと揺れる音、
神社からの太鼓や笛の音色。
それらの音が少しずつ遠ざかっていき、
星がまたたく夜空の下、スローペースの2人分の下駄の音が響く。
祭の途中で退散することになり、申し訳ない気持ちと寂しい気持ちになりつつも、
先輩の体温や表情や言葉によって、胸のドキドキは止まらなかった。
しかし、つながれた手の先から、
「確かにちょっと徹子っぽいかも」と言う声が聞こえたため、
あたしの頭の中では、トゥ~ルル、ルルルとあの番組の音楽が頭の中で鳴り響いてしまっていた。

