「先輩、浴衣いいですね。大人っぽいですよー」
「これ、いーだろ? この前ばーちゃんが買ってくれて、早く着たかったんだよ」
「あ、だからこの祭、楽しみにしてたんですか」
「ん? まー、そーだな」
いつもの石畳の道の両脇に並んでいるのは、
金魚すくいやヨーヨー釣り、チョコバナナにたこ焼きと、定番の出店たち。
だんだん空も暗くなってきて、提灯とお店の光が人ごみを優しく包んでいた。
「あ、先輩、勝負しましょーよ」
「いいよ。ま、負けねーけど?」
とりあえず、金魚すくい対決をすることに。
☆
「やったー! やっぱりあたしの勝ちー」
「やっぱこうなるのか。くそぅ」
大物を狙おうとして失敗した先輩。
それに対し、あたしはリズムよく金魚をすくっていた。
「わーオブチのねーちゃんすげー」と近所の子どもに話しかけられたので、プレゼントしてあげた。
いーな。楽しいな。
「あ、俺ベビーカステラ食いたい」
「いいですね。って待って~」
時間が経つにつれ、人はどんどん増えていく。
先輩の姿を見失いそうになったあたしは、
ぐいっと彼の浴衣の袖をつかんでいた。
すると、彼は「おい」と言って、あたしに不機嫌そうな顔を向ける。
やば。意外と強く引っ張っちゃったかも……!
「お前、何脱がそうとしてんだよ。俺の美しき体を公衆の面前で晒すつもり?」
少し気崩れた浴衣を整えながら、先輩はそう言う。
はいーーー!?

