濃い目のグレーの浴衣を着て登場した先輩。
いつものイケメン顔はもちろん、綺麗な首筋、チラッと見える鎖骨。
髪型も、前髪を上げて額が見えるようにセットされていて。
か、格好良すぎる……。
そしてセクシーなんですけど!!!
「あのさ、前に俺が言ったこと覚えてるよね?」
そんな先輩はニッコリと微笑み、女子たちに話しかけていた。
そういえば、『俺の大切な友達だから、嫌がらせとかやめてくれる?』って先輩がミーハー女子たちに言ってくれてたんだっけ。
あれ。よく見ると、笑ってるのは顔の下半分だけ。
完っ全に目は笑っていない。
これは、こ、怖いぞ……。
「あ、あはは~。久々にオブチさん見かけたから話しかけただけですって~」
「先輩、浴衣めちゃくちゃ格好いいですね~! じゃ、あたしたち行きますね~」
先輩の迫力に押されたのか、さっきの女子たちはそそくさと人ごみの中に消えていった。
どん、どん、と神社の方から太鼓の音が聞こえる。
あたしの心臓はもちろん、響き渡るその音よりも激しいビートを刻んでいた。
「……すみません。また先輩に助けられちゃいましたね。
でもさっきのやりすぎるとイケメンキャラ崩れちゃいますよ? あたしは全然大丈夫ですから」
よく分からない感情に包まれたあたしは、無理やり先輩に笑顔を作ることしかできなかった。
すると、先輩はキリッと鋭い目つきであたしをにらみつけ、
「お前さー。何でそう可愛くねーことしか言えないの?」
と言い捨てた、と思いきや。
「じゃねぇーーーー!!」
と、突然頭を抱えて叫び出した。
はいー!?
「あのぅ、吉野先輩?」
さっきの女子とのいざこざなんかすっかり忘れ、
先輩の混乱っぷりに目が点状態になるあたし。
「うるせーな。行くぞ」
そう言って、先輩はぷいっと人ごみの中を進んでいく。
「はーい」
って、待ってよー!
ま、とりあえずお祭を楽しむか。

