何であたしは吉野先輩にここまで構ってしまうんだろう。
昨日、手を振り払われた時、悲しくて寂しくて。
もう先輩に出会っていなかった頃の自分には後戻りができないんだと思った。
でも、あたしの存在はきっと、彼にとっては面倒なもので……
と、ネガティブに考えをめぐらせていたが。
「ごめん」
突然、先輩は消えそうな声で謝りだした。
少し、頬が赤く染まっているように見える。
「え……?」
「よく分かんないけど、とりあえず、ごめん」
なんすかそれ!
こっちだって良く分かんないんですけどー!!!
でも、伸びた前髪から見えたその目は、どこか戸惑いの色を浮かべていた。
彼の心に手を伸ばそうとしても、もやがかかっていて。
届きそうで全然届いていない感じがした。
「いや、あたしの方が、その、先輩に迷惑かけっぱなしだし、ごめんなさ……」
とあたしが言いかけると。
「ちげーよ。俺がわりーんだよ。でもよく分かんねーんだよ。とりあえず今はねみーんだよ。
……明日は夕方5時くらいに浴衣着てここ集合で。学校行くぞ」
と言って、先輩はぷいっと顔をそむけ、立ち上がった。
やっぱり昨日は1人反省会をしたらしい。
そして、やっぱり祭のことは忘れていなかったらしい。
でも、さっきのは一体、
何に対する『ごめん』なんだろう。

