先輩はこの場から離れようとしているけど、
さっきの話を聞いてほっとけなかった。
このまま先輩と気まずい関係を続けるのも嫌だし。
「あの、機嫌悪いのあたしのせいですよね。本当にすみません。良かったら話してくれませんか?」
あたしはその腕を掴んだまま、彼を見つめ続けた。
すると、先輩は伸びた前髪からうつろな目をのぞかせた。
「やっぱ俺なんか、くそ生意気でクズで根暗で面倒でしょぼいスーパーイケメンだよね……」
そう言って、彼は顔を伏せ、肩を落とす。
あ、やばい。
完全に気持ちが落ちてるよこれ!
あたしは掴んだ腕にぎゅっと力を込めた。
先輩の体温をシャツの袖越しに感じた。
しかし――
「なーんつってー! お前、また俺が凹みはじめたとか思ってんだろ、バーカバーカ!」
「え……?」
「たまにはフェイントかけてみようって思ったら、お前マジでひっかかってるし。ハハッ!」
ぱしっ、とあたしの手を振り払い、
先輩は「あばよ!」と言って、あたしの前から去ってしまった。
――うそつき。
動揺してるし。
鬱モード入ってるくせに。
突き放すんだったらちゃんと目を合わせて言ってよ。

