「へ、へぇ~。さすがスーパーイケメンっすね。あんなスーパー美女とお付き合いされていたとは」
「去年だったかな。浮気されたから別れた。
……別に今でも時々話したりはするけど」
あたしの2歩先を進んでいた先輩は、そう言ってあたしを振り返った。
「……え? 浮気って、ひど……」
「所詮俺は表面上でしか女と付き合ったことないから。
優しくて性格のいい彼氏=俺。それじゃ相手は物足りなくなるのかもね」
すぐ先、県道を渡るための信号が青く点滅している。
でもあたしも先輩も立ち止まったまま。
えーと。
表面上でしか付き合ってないってことは、要はイケメンモードのままで彼女さんと接していたのか。
あ、そういえば。
前にスミスさんも、吉野先輩はいつもいい人で素を見せてくれないから、一緒にいて時々寂しくなるって言ってたな。
車道の信号が青になったようで、車が左右に流れていく。
「それって……先輩は本当に好きだったんですか?」
あたしが先輩を見上げてそう言うと、
「まともに恋愛したことないお前にはとやかく言われたくねーよ」
と彼は低い声で言って、視線をそらした。
「…………」
「じゃ、俺駅ビル寄って帰るし」
先輩は無表情なイケメン顔のまま、県道を道なりに進もうとしている。
――あ……!
でも、前髪越しにちらっと見えた目はどこか光を失っているかのようで。
「ちょっと、先輩待って!」
思わず、あたしは先輩の腕をつかんでいた。
しかし、
「やだ!」と言われ、プイッと顔をそらされてしまう。
なんだお前は駄々をこねるガキか!
「ここ最近ずっとですが、あたしに対してイラついてますよね?」
「別に……」
「だって、あたしのこと避けようとしてるじゃないですか」
「…………」
かたくなに斜め下を向き、表情を見せてくれない先輩。
どかーんどかーんと重い物がのっかっていくかのように肩が丸まっていく。
あたしは気がついた。
絶対、コイツ今鬱モード入ろうとしてる!!

