「はぁ……」
めんどくさ。ジャージに着替えて帰んなきゃ。
制服を濡らしたまま、ささっと教室に戻ろうとしたところ――。
ふわっと、先輩の香りがする紺色の何かが降ってきた。
驚いて、その正体を確かめると、
さっきまで先輩がシャツの上に着ていたニットベストだった。
「ちょ、濡れちゃいますよ。これ!」
「別にいーよ。お前、そのままじゃ透け透けだし。逆セクハラで訴えられるぞ」
「……っ!(ちょっとムカッ)」
確かに、シャツが透けて下着がうっすらと見えている状態だった。
その紺色で胸のあたりを隠しながら、ふと、まわりを見渡す。
――ぎゃーーーっ!!!
なんと掃除用具を片付けている委員長とメンバーたちの、
その奥には……
般若のような顔であたしをにらんでいる、さっきの女子2名がー!!!
これ、かなりやばい!
「すみません、これ大丈夫です! お気持ちだけで十分ですので!」
あたしはベストを先輩に返し、一目散にその場から逃げ出した。
先輩からラインが来ていたけど、無視して、
教室でジャージに着替えてソッコーで家に帰った。
ああ。先輩に迷惑をかけず、かつ、この女子たちを穏便に落ち着かせる方法は無いだろうか。
あたしが先輩に近づかなければいい?
いやいや、そしたら先輩が変に思っちゃうし、
ストレス発散相手がいなくなっちゃって先輩、絶対ハゲちゃう。
平和的に話し合いで解決すればいい?
無理無理! あの軍団は好戦的なヤツらっぽいし、カーン! とゴングが鳴ってしまうだろう。
でもやられっぱなしなのは嫌だ。
あんなあたし以上のクズ女子たちなんかに悩まされるなんて悔しすぎる。
あっ……!
『うちの高校って暴力とかケンカ系に厳しいし、おめー無理に反撃すんじゃねーよ。
適当にパンチ喰らって、ぶっ倒れといた方が絶対いーから』
いつぞや、ケバ女――花子に言われたことを思い出した。
これ……切り札じゃね?

