はぁー。危ない危ない。
漫画の王子様と目の前のイケメンをごっちゃにしてしまうところだった。
『おめーみたいなくせーブスが吉野先輩に近づいたら、先輩に汚物菌が移っちゃうよねー。やめてくんない?』
先輩みたいなイケメンがあたしに惚れてくれるなんて、現実では絶対にありえないことだ。
分かってんだよそんなことは!
「…………」
――う。
寝顔も格好良い……。
先輩ってホント整った顔立ちしてるよなー。
まつ毛長いし、肌もきれいだし。
あ、髪の毛、ローファー事件の頃よりも、ちょっと伸びたなー。
あたしは先輩の顔を覗き込みながら、
ワックスでボリュームを出している頭のてっぺんあたりの髪の毛を指でとかした。
「ん……」
と気持ち良さそうに顔を軽く揺らす先輩。
いつもキャーキャー言われてる吉野先輩が、今、あたしの目の前でこんなにも無防備な姿を見せてくれている。
これは紛れもない現実だ。
って、何勝手に先輩に触ってんだ? あたしは!
彼を起こさないように、そそーっと自分のスペースに戻ろうとしたが。
「……おい」
突然、先輩のまぶたが開いた。
「ひっ!」
ザクッと刺すような恐ろしい視線でにらまれる。
ぎゃー! 起こしちゃった!?
「人の寝顔、無断で見てんじゃねーよ」
「いや、あの、その……ほわっ!?」
――え!?
テンパってる間もなく、視界が真っ暗になった。

