彼に聞きたいことがある。


でも、彼の返事が怖くて聞けなくて。


それで、また一人不安に駆られる。


ほんと、悪循環…



そんな時間を過ごし、彼との旅行の日はやってきた。

旅行といっても明日の昼から彼のバーの研修が入ってしまって、今日は日帰りなんだけど。



でも、二人きり。


その時間がやっぱり私は嬉しくて仕方ない。




『芽衣、もう着くよ?』


彼の運転で、彼の行きたがってたとこに向かってる中、彼がそう言った。

窓から見る景色には海がよく見渡せる、すごく綺麗な場所。




『到着』


彼はそう言って車を駐車場に停めた。




『お疲れ様です』


私がそう言うと、彼はニッコリと微笑んだ。


その笑顔を見てから、私たちは車から外に出る。



『綺麗なところだね』


私が声をかけると、彼は後部座席から綺麗な花束を取り出した。



『…それ…』


『あ、これ?
 残念だけど芽衣のじゃないんだ』


彼はそう言って、悲しそうに笑った。



『ごめん、今日は母親に会いに来たんだ』


彼はその顔のまま、そう言った。



…母親…


この間、浩二くんが言っていた言葉が脳裏を過ぎる。




『俺の母親、俺が中学の時、病気で死んで、今、ここの墓地に眠ってんの』



『ごめん、旅行とか言いながら、ただの墓参りで…』


そう言いながら、彼は何故か苦しそうな顔を見せる。



『…そっか』


きっと、浩二くんの言ってたことが本当なら。

彼は今、どんな気持ちで、どんな思いで、ここに立ってるんだろう…



『行こ』


彼はそう言って、一人、静かに墓地の入口に入っていく。




『…うん』


私は彼の後を追って、入っていく。



墓地、それは暗くて、寂しい気持ちになる、そんな思い入れがあったけど、日差しも良くて、海もよく見えるところだから墓地という気さえしない。


その位、明るい場所だった。