『何言うかと思えば…変なこというなよ』


俺は浩二を軽くどついた。



『それに、俺、最低とか怒鳴られたし。
 俺だってあんな女好きじゃねぇよ』


俺はそう言って、浩二のお気に入りのタバコに火をつける。

ぷーんと香る、浩二の匂い。


『お前、最低とか女に言われたことあんの?』


『あるある、何度も。
 遊ぼうって誘われて、その約束をすっぽかした時、
 セフレでもいいからって言われて本当にセフレにした時、
 それから……キスして、ただしたくなったからしたって言った時』


『最後のって芽衣じゃん』


浩二はそう言って、吹き出す。



『本当に、ただしたくなったから?』


浩二の問いかけに、再び俺は詰まる。



多分。


多分、いや絶対にそうだ。


だって、俺は今まで本気でキスしたい、こいつとキスしたい、そう思ったことは一度もない。


せがまれてキスするくらいで。


だって、ファーストキスだって、そうだったんだから。



『なぁ、司?
 恋愛ってさ、怖いと思わねぇ?』


『…何が?』


『なんかさ、一人の時って我を通せるじゃん?
 けど、特別な奴ができると我を通せなくなる。
 なんつーか、自分を誤魔化しきれないっていうか?』


浩二の言ってる言葉の意味が分からない。


『つまり、相手を想う自分の気持ちに偽れないっていうかさ…
 まぁ…そのうち、お前も誰かと恋してわかると思うんだけどさ』



浩二、俺は恋はしない、

俺は恋をしようとも思わない、

それに、俺は恋をしちゃいけない。



『浩二、俺は特定の奴なんて作らない。
 そういうのに振り回されるのも面倒くさいし。
 もっと簡単で、割り切った関係の方が後腐れもないし』


俺はそう言って、タバコをふかす。



『とりあえず、謝っといたほうがいいんじゃね?』


浩二の言葉に、俺は何も返事が出来なかった。



俺、アイツの話題には返事出来ないことが多い。


なんで?