寝かけている部長をタクシーで送った俺は、真っ直ぐ家へ帰る気分にはなれなくて、次の注文を待つ運転手に実家までの道を告げた。 たまに話しかけてくる運転手に返事をしながら、俺は窓の外を眺めていた。 ……薄い雲がかかった、丸い月。 「満月の夜は人を興奮させる」とよく聞くけれど、それは本当なのだろうか。 今の俺にとって満月は、寂しい気分にさせるもの以外の何ものでもないような気がする。 パタンと閉まったタクシーのドア。 金を払った俺は、長財布を鞄の中に入れ、とぼとぼと歩きだす。