「生島さん。
奈々恵さんはそこまでして、生島さんを愛したんですよ」
「奈々恵さん……」
黒田くんが生島くんを離すと、生島くんは崩れ落ちた。
俯いて泣いているらしい生島くんを見た黒田くんは、あたしの元へ来てくれた。
「大丈夫ですか優子さん」
「黒田くんッ……」
「安心してください。
もう大丈夫ですよ。
今ロープ離しますから、大人しくしてくださいね」
黒田くんは笑うと、シュルッとロープを器用に外してくれた。
手に巻かれていたロープが離れた途端、あたしは黒田くんに抱きついた。
そして子どものように、思い切り泣きじゃくった。
「優子さん。
俺のこと、黙っていてごめんなさい」
「良いの……。
あたしも忘れていたから。
6年前、あたしに楽譜をくれた男の子だって」
「覚えていたんですか……?」
「うん。
黒田くんと別れて、思いだしたんだ。
今もあの楽譜は、取ってあるよ。
だって、あたしがピアノを始めるきっかけの楽譜だもの」
黒田くんはあたしを抱きしめてくれた。
あたしも黒田くんの肩に顔を埋め、思い切り泣いた。