西條由香(さいじょう・ゆか)。

あたしと同じ音大に通う、幼馴染。

小学校の時から一緒なんだ。

あたしが高校から通い始めたピアノ教室は、由香の実家なんだ。

だから由香は物心ついた時から、ピアノをしている。

あたしなんかより、数十倍も上手い。

数十倍って言葉じゃ収まり切らないかも。






「優ちゃん上手かったね!」

「ありがとう」

「私も優ちゃんみたいにピアノ上手くなりたいな」

「何言ってんのよ。
由香の方が、あたしより上手いじゃない」

「だって優ちゃんは、卒業したら海外行くんでしょ?
羨ましいよ」




由香は海外へ行かず、実家のピアノ教室を継ぐ。




「あたしはそれも羨ましいけどな。
あたしも沢山の子どもにピアノ教えたいな」

「大変だと思うけど……」




肩を落とす由香。

あたしはそれを見て笑った。




「あと、優ちゃんには生島(いくしま)くんがいるでしょ」



その名前に、あたしは「へっ!?」と素っ頓狂な声を出してしまった。