あたしはホールの裏口から、外に出た。
多くの奈々恵さんの出待ちがいる。
あたしは帽子をかぶって、歩きだす。
あたしのファンじゃないけど、一応ね。
あたしがピアノを始めたのは、高校生の時。
かなり皆から遅れて始めたの。
高校3年生の時見に行ったピアノリサイタルで感動して、近くのピアノ教室に通い始めた。
そこから沢山練習して、今の位置にいる。
音大に入れたのは、本当に奇跡。
あたしが教室でピアノを弾いているのを、音大の教授さんが見ていて、あたしをスカウトしてくれた。
特待生入学のあたしは、学費も少し安いから、両親も助かっている。
あたしも親孝行が出来て、良かった。
ピアノは大好き。
綺麗で、聞いた人を笑顔に出来るから。
あたしももっと上手くなって、プロになりたい。
そうしたら奈々恵さんみたいに、観客を笑顔に出来ると思うから。
「あ、優ちゃん!」
「ゆ、由香(ゆか)?」
奈々恵さんの出待ちをしている人たちの中から現れた友人に、あたしは思わず立ち止まった。