「ちょっと二人とも、落ちつい」

「これが落ち着いてられるかー!
優衣だって、先輩がどんな人か知ってるでしょ?
イケメンでサッカー部のエースで、しかも超モテてるあの広瀬先輩だよ?」


…う、そりゃあもちろん知ってますとも。

こないだだって、物凄い大勢の女の子達からキャーキャー言われてたし…


「しかも上級生の間じゃあ、ファンクラブまであるらしいのに!?」


ファ、ファンクラブぅ?!

なななにそれ?


それって公式?それとも非公式?


自分でも何言っちゃってるのか分かんないけど…


それでもひとつ分かるのは

中学1年、まだ若干12歳の私――栗原優衣(くりはら ゆい)が好きになってしまった相手は、
もの凄く遠い存在の人だということ。



「まぁなにはともあれ、優衣にもとうとう春がきたってことか~」

「そういえば今まで好きな人出来ないって悩んでたしね。おめでとう」


なのに

それなのに…!


よりにもよって、やっと出来たはずの初恋の相手がそんな凄い人じゃあ
初恋にして初失恋も同然じゃん!?


そんな自分の見る目のなさ(?)を恨めしく思っていると

追い討ちをかけるかのように
どこからともなく跳んできたサッカーボールが、私の後頭部へ激突した。